三重大学医学部(津市)の朝は早い。8時半、3年生7人が資料を持って集まり、狭い教室の机を囲んだ。学ぶのは、発育の遅れで受診した生後4か月の女児のケースだ。
「心電図のP波が高いのはどうしてかな」「右房負荷が原因では」「でも、子供は大人と同じとは限らないでしょ? 子供は成人のミニチュアではない、って(医学書で)読んだよ」
患者の症状や検査結果を記した資料をもとに、各自が事前に勉強し、成果を持ち寄って議論が進む。そばで見守っていた医学・看護学教育センター講師の中井桂司さん(42)が時折質問を投げかける。最終的に、先天的な心臓病の「ファロー四徴(しちょう)症」と診断を下した。
従来の専門科別の講義ではなく、患者の症例を軸に自主的に学習を進めるこの手法は、「PBLチュートリアル」(問題立脚型学習)と呼ばれる。国立では、三重大学が、岐阜大学とともに先駆的とされる。
医学部 受験 予備校
「医学の進歩は激しく、知識はすぐに古くなる。自分で考え、生涯学び続けられる医師に育てなくてはならない。だからPBLが有効です」と中井さんが強調する。
三重大のPBLは3年の後半から1年半、週2回行われる。「呼吸・循環」「心臓」など、1テーマに4〜5週間かけ、討論と、関連した講義を組み合わせた形式だ。討論の雰囲気や態度、発言の量など、日常の様子も評価の対象。自己学習が前提なので、勉強不足や欠席が続けば、たちまちついていけなくなる。6年間で医師としての最低限の臨床能力を付けるためには、PBLに合わせて1日少なくとも3時間の勉強に励む必要があるという。
テーマごとの修了試験もある。3年生でも、国家試験を超えるレベルの問題を出す。臨床現場で求められる深い知識と分析力を実感してもらうのが狙いだ。
「PBLでは学生の力の差がすぐ分かる。勉強不足の学生には面談室に呼び出すなど、早めのてこ入れができる」(中井さん)
「答えが一つではないし、勉強すればするほど疑問が出て、モヤモヤする」「知識が偏っているのではないかと心配になる」といった学生もいるが、「確実に勉強する姿勢が身につく」という実感は広がっている。
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だが、課題も多い。1コマの授業で14のグループがあり、教員の確保とスケジュール調整が難しい。診療や研究の合間に、早朝から授業を行ったり、討論に慣れた4年次では、複数のグループを1人の教員が指導するスタイルも取り入れたりせざるを得ない。
基礎医学の専門家が臨床医学のテーマを指導する場合の難しさなど、学生の授業への満足度は、教員の意欲や指導法で大きく左右されるのも悩みどころだ。
PBLは、「自ら学ぶ医師育成」への改革を象徴する教育方法として注目されているが、急速に普及した手法だからこそ、時間をかけて効果が検証される必要がありそうだ。(片山圭子、写真も)
PBL(Problem Based Learning) チュートリアル 日本では東京女子医科大学が1990年に取り入れたのが最初。現在は9割の大学が導入するが、成果を十分に上げられているかには差がある。福岡大学(福岡市)では、2〜4年生に実施していたPBLを今年、大幅に縮小した。学生の学力格差が広がり、国家試験の合格率を上げる効果が薄かったのが理由だという。

